28. 『シイラ』は輝きに全振り!? “エメラルドに光るマヒマヒ”の若く儚い一生

シイラの姿

海の表層を、光輝きながら走る魚がいます。

シイラです。

夏の強い日差しの下、群れで回遊し、青からエメラルド、そして黄金へと体色を変化させながら高速で泳ぐ姿は、まるで海面そのものが生きているかのような躍動感を帯びています。

水面近くを好むその生態は、外敵に見つかりやすい危うさと、誰よりも早く光に触れられる自由さを同時に抱えています。

▪️色んな呼ばれ方がある『シイラ』

シイラは漢字で「鱪」「鱰」などと書かれますが、一般には当て字として「椎葉」「志以良」なども用いられてきました。

一定した表記を持たないこと自体、この魚が古くから人々の身近にありながら、どこか掴みきれない存在であったことを示しているようにも感じられます。

長崎ではシイラが「万引き」と呼ばれ、水面を疾走するその引きの強さが、まるで何かを奪い去るように感じられるからだと言われます。

▪️流木に集まりながら日本列島を縦断する

生態的には、シイラは暖かい海を広く回遊する外洋性の魚です。

流木や漂流物の周囲に集まる習性があり、外洋の広大な空間の中で、わずかな“拠り所”を見つけて群れを形成します。

日本近海での動きは、

春:南方(台湾〜沖縄周辺)から北上開始

夏:九州〜日本海〜太平洋沿岸に広く分布

秋:東北付近まで到達する個体も

冬:水温低下とともに南へ戻る

つまり 一年で日本列島を縦断する高速旅魚

この長距離移動が、あの圧倒的な筋肉と瞬発力を作ります。

▪️輝く為だけに生きるエネルギッシュな一生

成長は非常に早く、1年ほどで1メートル近くに達することもあり、

短い時間を一気に駆け抜けるような生命の速度を持っています。

数年で成熟し、繁殖期は主に初夏から夏にかけてで、外洋の暖かな水域に卵を放出します。

卵や稚魚は海面近くを漂いながら成長し、やがて自らも光の近くを泳ぐ存在になります。

生まれた瞬間から、明るい世界へ押し出されるような生のあり方です。

更に、シイラは典型的な表層回遊型の肉食魚です。


海面近くを高速で泳ぎながら、動く獲物を積極的に追います。

主な餌はイワシ・アジなどの小魚や流木や漂流物につく小型生物です。

その一方で、シイラの天敵はマグ、カジキ、サメなどの大型魚や、海鳥、

さらには人間の釣りの対象にもなります。

海の食物連鎖で見ると、

小魚 → シイラ → マグロ・サメ 

というエネルギー中継点の役割を持ちます。

表層を高速で泳ぐ習性は、逃げやすさと同時に見つかりやすさも意味します。

輝きは守りであると同時に、危険の印でもあるのです。

▶︎マグロ(シイラを捕食する表層回遊魚)

▪️世界中で人気のゲームフィッシュ

シイラは世界的にはスポーツフィッシングの象徴でもあります。

ルアーに激しく反応し、水面を跳ねる豪快なファイトは多くの釣り人を魅了してきました。

シイラはヒットした瞬間から止まりません。


横へ、前へ、そして突然の跳躍。


海面を叩き割るようなジャンプは、


魚を釣っているというより、


海そのものと綱引きをしている感覚に近いです。


走り、跳ね、いなし、寄せる。


その一連の流れが長く続くことで、


釣り人は自分の呼吸や感覚と向き合うことになります。


これは単なる捕獲ではなく、
時間を共有する行為に近い。

一直線に走り、ためらわず跳び、最後まで抗う。

だから釣り上げたあと、


静かになった魚体を見たとき、


私たちは少しだけ言葉を失います。

さっきまでそこにあった
激しい時間の残響だけが、


手の中に残るからです。

▪️ハワイでは『マヒマヒ』と呼ばれる高級魚

ハワイをはじめとする南洋地域では、

シイラはマヒマヒと呼ばれます。

この名はハワイ語で

「とても強い」「力に満ちた」という意味を持ちます。

つまり南洋においてシイラは、


単なる食用魚ではなく、


生命力そのものの象徴として見られてきました。

▪️日本とハワイでのシイラ(マヒマヒ)食べ比べ

・日本では保存を前提として調理

シイラの身は白くやわらかく、クセの少ない淡白な味わい。

しかし水分を多く含むため傷みが早く、

かつては地元で消費されることの多い魚でした。

日本各地で親しまれてきた調理法の中心は、

油との相性を生かした料理です。


塩焼きや煮付けもありますが、

もっとも安定して美味しさを引き出すのはフライでしょう。

衣の油が身の水分を閉じ込め、

ふっくらとした甘みが際立ちます。


近年は鮮度管理の向上により、

シイラの評価も少しずつ変化しています。


ムニエルやバター焼き、

カルパッチョ、

さらにはフィッシュバーガーなど、

洋風の料理にもよくなじみます。


淡白で香りが穏やかな身質は、

バターやハーブ、

柑橘の風味を素直に受け止め、

軽やかな一皿へと変わります。

・ハワイでは鮮度を生かした食べ方

一方、ハワイでは「マヒマヒ」と呼ばれ、

通年で楽しまれる人気の白身魚です。


シンプルなグリルや

ガーリックバターソテー、

爽やかなフィッシュタコス、

ポキなど、


素材の清らかな甘みを生かす料理が主流です。


同じ魚でありながら、

保存を前提とした日本の食べ方と、

鮮度を前提とした南国の食文化。

その違いは海との距離感の違いを映しているようにも思えます。

▶︎マサバ(日本の食卓の主役)

▪️鮮烈な退職変化の仕組み

海の表層を高速で泳ぐシイラは、


釣り上げられた瞬間、驚くほど鮮やかな色彩を放ちます。


青緑、黄金、水色――


その体はまるで光そのものが形を得たかのように、
激しく色を変えながら輝きます。

しかし、この現象は神秘でも象徴でもなく、


きわめて明確な生理学的反応によって生じています。

シイラは太陽光の強い表層で生活し、
高速で回遊し続ける魚です。


強い光の中で仲間と信号を交わし、


捕食者に対して威嚇し、


興奮状態を瞬時に伝える必要がありました。

その結果、
光を利用した体色制御能力が極端に発達したのです。

捕獲されたシイラの体色が急激に変化する最大の要因は、


強烈なストレスによる交感神経の過剰な活性化にあります。


これは人間でいえば、恐怖による蒼白や緊張による赤面と同じ仕組みです。


ただし魚の場合、その反応は全身規模で起こり、


私たちの目には劇的な発光として映ります。

▪️『若気の至り』にシイラを重ねる

ここまで見てきた通り、シイラは、

速く成長し、

強い筋力を持ち、

海面で光輝くが、

短命で、常に捕食される側でもある

という、輝きと危うさを持ち合わせた存在。

だからこそ、

強烈に生きて一瞬で消える覚悟を持った魚

のように見えます。。

これは心理的に見ると

人間の若さと極めて似ています。

若い時期の人間もまた、

未来より「今」の強度で動き

安定より「速度」を選び

傷つく可能性より「体験」を優先します

これは未熟さではなく、

短い時間しか持たない力の使い方です。

つまりシイラは、

生物としての青春そのものなのかもしれません。

▶︎マッコウクジラ(深海という闇を選んだ生き方)

▪️終わりにーーシイラにみる眩慢(げんまん)の心

仏教の煩悩に眩慢(げんまん)という言葉があります。

これは、

きらめきの中で自分を過大に感じてしまう心

に近い状態です。

シイラのように、

光は長く続かない

それでもなお、

全力で海面を走る

そんな生き方をシイラは肯定している。

外的に目立つ水面という危うさを抱えたまま、

最も光の強い場所を選ぶように生きる。

その姿は、

海という大きな無常の中で、

一瞬の輝きを生き切ろうとする

命のかたちそのものなのかもしれません。

▶︎ 西日本の海に生きる魚たち一覧(ブログトップ)

《参考文献・出典》

 
KAMBA