12. “闇に目を凝らす”魚『メバル』は、夜を生きる知恵

『メバル』のイラストは現在準備中です | きよまる魚図鑑

夜の海には、昼とはまったく異なる表情があります。
光が減り、音が近づき、気配だけが濃くなる時間帯。
そんな世界で、静かに存在感を放つ魚がメバルです。

メバルは漢字で「眼張」「目張」と書きます。
暗い海の中でわずかな光を逃さないため、大きく張り出した目を持つことから名付けられました。
この目こそが、メバルという魚の生き方を象徴しています。

▪️夜行性の魚、メバルの生態

メバルは基本的に夜行性です。
昼間は岩陰や海藻の奥、テトラポッドの隙間に身を潜め、夜になるとゆっくりと動き出します。
獲物を追い回すことはせず、岩陰から様子をうかがい、近づいてきた小魚や甲殻類を静かに捕らえます。

その動きは速くありません。
しかし、暗さの中で「待つ」ことに特化した生き方は、無駄がなく、非常に合理的です。

▪️西日本の海とメバル

西日本の沿岸は、メバルにとって理想的な環境です。
岩礁が多く、潮の流れが複雑で、人の暮らしと海が近い。
瀬戸内海、日本海側の入り江、九州沿岸など、各地で「身近な魚」として親しまれてきました。

釣り人にとっては、夜の海を楽しむ象徴的な存在でもあります。
日が沈み、海が静まり返った頃、竿先に伝わる小さな反応。
その控えめなアタリが、メバルであることも少なくありません。

▶︎タチウオ(夜行性の魚)

▪️メバルの食性と生態

メバルは肉食性で、
小魚、甲殻類、ゴカイ類などを食べます。

ただし、追い回すタイプではありません。
あくまで待ち伏せ型。

岩陰からじっと様子をうかがい、
「ここだ」と思った瞬間に口を開く。

この慎重さが、
彼らを長く生き延びさせてきました。

メバルは成長が比較的ゆっくりで、
大型になるまでに時間がかかります。
そのため、昔から「資源として大切に扱うべき魚」として、
漁師たちの間でも暗黙の了解がありました。

▶︎ウツボ(静かに潜む魚)

▪️卵胎生という、守るための選択

メバルは卵胎生の魚です。
卵を産みっぱなしにせず、体内で孵化させ、稚魚の状態で産みます。
これは、流されやすく、捕食されやすい沿岸環境で生き延びるための進化と考えられています。

「外は危険だから、しばらく内側で守る」
そんな慎重な選択が、メバルという魚の性格をより際立たせています。

▪️食文化の中のメバル

メバルは派手な高級魚ではありませんが、

非常に完成度の高い白身魚です。

  • 煮付け

  • 塩焼き

  • 唐揚げ

  • 刺身(鮮度が良い場合)

特に煮付けでは、身の柔らかさと皮の旨味、骨から出る出汁が調和し、
「静かに美味しい魚」として多くの家庭で親しまれてきました。

▪️終わりに—暗さと共に生きる知恵
メバルは暗い海の中で、必要以上に動かず、わずかな光を頼りに生きています。

それは、闇を否定せず、受け入れた上で生きる姿です。

先が見えない中で、それでも目を凝らし、進もうとする心。

すべてを照らす必要はない。
すべてを急ぐ必要もない。
メバルは、暗さの中で慎重に生きるという、もうひとつの正しさを教えてくれます。

夜の海で大きな目をひらきながら、
メバルは今日も、わずかな光を探して生きています。

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《参考文献・出典》

 
KAMBA